とある、平日の夜……。

あなた「日曜日、一緒に買い物に行かない?」

アンリ「え! 行く行く。超行く」

ばっと体を起したアンリくんが、立ったままの私を見上げて笑顔になる。

アンリ「あー、その約束があれば、休みまでの間、仕事頑張れそう」

アンリ「ありがと、千歌ちゃん。楽しみにしてるね!」

あなた「うん、私も!」

こうして私はアンリくんと、日曜日の約束を交わしたのだった……。


…………


約束の朝、玄関で靴をはき終え、私はアンリくんを待っていた。

宗詩「あれ? 千歌。出かけるの?」

宗詩「もしかして、デート?」

あなた「へ!?」

宗詩「なんか、ウキウキして見えるからさ」

宗ちゃんのその指摘に、なぜか鼓動が跳ねる。

あなた「デート……なの、かな」

(そんな風に言われたら、ドキドキしてきちゃう)

呟いてから、考えていると……。

アンリ「あれ、どしたのー?」


アンリ「何話してたの? 顔、赤いけど……なんかあったー?」

アンリくんに指摘されて初めて、私は自分の顔が上気していることに気づく。

あなた「なにもないよ! 行こう」


…………


そうして表参道まで、買い物にやって来たけれど……。

アンリ「ねえねえ」

買い物の最中、アンリくんは何度も私に聞いていた。

アンリ「やっぱり気になるんだけど。宗ちゃんとなに話してたの?」

あなた「大した話じゃないってば」

アンリくんは、あの時顔を赤くしていた私の反応が、気になっているようで……。

(本当に大した話じゃないのに、隠すと大ごとに思えるかも)

並んで歩きながら、私は小さく息を吸い込んでから言った。

あなた「本当に大した話じゃないの。ただ」

あなた「宗ちゃんに『アンリくんとデートなの?』って聞かれて、私がなんか……照れちゃっただけだから」

アンリ「…………」

目の前で信号が赤に変わり、お互いの足が止まる。

アンリ「……あー」

アンリ「俺ってほんと余裕ない。かっこわるい」

あなた「……!? なんで?」

突然の言葉に驚き聞くと、ためらいながらもアンリくんが私を見つめる。

アンリ「宗ちゃんと話してて、赤くなってたから」

アンリ「俺てっきり、千歌ちゃんは宗ちゃんとイイ感じなんだと思って」

あなた「ええ! 誤解だよ」

慌てる私にふっと短く笑って、アンリくんはゆっくりと私に向き直った。

アンリ「うん。よかった」

アンリくんがそう言った瞬間、赤信号が青信号に変わった。

アンリ「デート、続きしよっか」

アンリくんはにっこりと微笑み歩き始める。

アンリ「ねえねえ」

アンリ「せっかくだし手とか繋いでみちゃう?」

あなた「っ……!」

アンリくんの手が、私の方に伸ばされている。

(うわ……ドキドキ、する)

桜城を出る時よりもずっと、頬の熱を感じながら、

私はアンリくんの手のひらに向けてそっと、指を伸ばした。

『行きたいところがある』と言うあいと一緒に、亮は近くの公園へやってきた。

あなた「わあ…思ってた通りだった! 綺麗だね」

亮「見事に咲いているな…」

いつのまにこんな季節になっていたのかと思いながら、美しく咲き誇る桜を眺める。

あなた「この前、買い物帰りに見つけたんだ」

あなた「あの時はまだあんまり咲いてなかったんだけど…」

あなた「今日くらいには、満開に近くなってるかなって」

亮「そうか。…綺麗なものだな」

あなた「え…」

亮の言葉に、あいはぱちぱちと目をまたたかせた。

亮「…なんだ、その顔は」

あなた「あー…いや、だって」

あなた「亮の口から素直に『綺麗』って出てくるなんて思ってなかったから」

亮「綺麗なものを見た時くらい、正直に言う」

亮はそう返し、あいの頬にそっと触れる。

あなた「亮?」

亮「お前は綺麗だ」

あなた「っ! な、何言ってるの…!」

あいはぷいっとそっぽを向くと、亮の手を引いて歩き出す。

(照れ隠しか…可愛いものだ)

小さな手をぎゅっと握り返すと、あいの横顔が嬉しそうに綻んだ。

あなた「お弁当持ってきて、お花見してもよかったね」

亮「花見?」

あなた「あ…したことない?」

亮「ああ…噂には聞いたことがあるが」

(たしか、桜の下で料理や酒を広げて、宴会するんだったな)

あなた「そっか…じゃあ、来週末辺りにでも、みんなの時間が合えばお花見してもいいかもね」

亮「あいつらとか? …また、騒がしいだろうな」

あなた「ふふっ…でも、それも楽しいでしょ?」

亮「ああ……、」

悪くないと言いかけて、やめる。

(また、苦笑させてしまうだろうからな)

あいはくすくすと笑うと、近くのベンチに亮を引っ張っていった。

2人並んでベンチに座り、風に揺れさらさらと音を立てる桜を見上げる。

あなた「ほんと、綺麗だな…」

亮「…お前と一緒にいると、今まで見えなかったものが見えるようになる」

あなた「…え?」

亮「季節なんて、過ごしやすさが変わるだけで、大した変化ではないと思っていた」

でも、最近はきっとそうではないのだろうと、あいといると感じるようになった。

(…たしかに俺は、経済的には豊かな生活をしてきたかもしれない)

(だが…もしかしたら、色々なものを犠牲にしてきたのかもしれないな)

心は、自分よりもあいの方がずっと豊かだと思う。

そして、その豊かさがとても愛しく、大切にしたいと思っていた。

(あいといると、今まで見向きもしなかったものが眩しく見える)

亮は小さく息を吐き、あいの肩にもたれかかった。

そっと目を閉じると、あいが優しい声をかけてくる。

あなた「亮? どうしたの?」

亮「…少し、このままでいろ」

あなた「うん」

『綺麗だね』ともう一度呟くあいの声が、耳に心地いい。

(ああ…綺麗だ)

(お前も、桜も)

誰よりも愛しい人と見る桜は、今まで見たどの桜よりも美しい。

強く思いながら、亮はあいの温もりに身を委ねた…―

シド「へえ、お前ピアノ弾けんのか」

あなた「あんまり上手くはないけどね、少し教えてもらったことがあるくらいだし」

少しだけ緊張する指先で、私は一音を奏でた。

シド「…………」

バースデーソングが教会の中に響いていく。

(つたない演奏かもしれないけど)

(これで気持ちが伝わるといいな…)

弾き終えて、指をそっと鍵盤から離す。

シド「今の曲……」

あなた「誕生日って聞いたから…今日のお礼も込めて」

あなた「…どうかな?」

シド「…習いたての子どもみてえな演奏」

見上げると、シドの顔にはひどく優しい笑顔が広がっていて、鼓動が高鳴って慌てて視線を外した。

あなた「…そんなこと言うなら、シドも弾いてみてよ」

シド「いいけどよ、俺の演奏は高えぞ?」

シド「…おい、そっち詰めろ」

あなた「え…」

シドが隣に座って、肩と肩が触れ合う。

シド「ほら、さっきのもう一回弾け」

(なんだ、ほんとにシドが弾くのかと思っちゃった)

あなた「…わかった」

もう一度曲を弾き始めると、鍵盤にシドの手が添えられて……

(――…え?)

音色に重なるように、シドの指が音を奏でていく。

あなた「………シド」

シド「…手、止めんじゃねえ」

あなた「…っ」

(これ……ルイとノアがやってた連弾だ…)

最後まで弾き終えると、思わず拍手をしてしまった。

あなた「すごいね、シド! ピアノ弾けたんだ」

シド「…お前、予想外の反応するな」

シド「てっきり似合わねえって言うかと思ったが」

あなた「だって…すごいと思ったのは本当のことだから」

シド「お前…演奏だけじゃなくて、性格まで子どもみたいだな」

あなた「…もしかして、馬鹿にしてる?」

シド「素直だって言ってんだ」

ふっと笑ったシドの手が頬に伸ばされた時……

???「誰かいるのか?」

あなた「……!」

シド「……教会の司祭か」

(勝手に入ったのがバレたら怒られるかな…)

シド「…ったく、しょうがねえな」

低い声が耳元で響いて、ふわっと体が浮き上がる。

(え……)

シド「逃げるぞ」

私を担ぎ上げたまま、シドは教会の扉を押し開けて路地裏に飛び出した……

あなた「ちょっと、この持ち上げ方はひどい…!」

シド「あーうるせえプリンセスだ。…この方が速えだろうが」

あなた「でも…!」

シド「大人しくしてねえと…もっとひどくするかもな」

あなた「…その言葉、悪役みたいだよ」

シド「プリンセスをさらう悪役か?」

シドは可笑しそう笑うと、担ぐ腕にぐっと力を入れる。

シド「なら、このまま全部お前のこと俺のもんにしちまうか」

あなた「…っ…シド!」

シド「冗談に決まってんだろ、本気にすんな」

夜風の音にまざって、シドの笑い声が耳に届く。

あなた「おめでとうございます、龍馬さん」

龍馬「…………」

私の言葉に、龍馬さんがふっと吹きだすように笑った。

龍馬「忘れてた。俺の誕生日か」

その嬉しそうな、けれど少し照れた表情に胸が軋むような音をたてる。

そんな私の目の前で、龍馬さんは立ったまま手を伸ばしカステラを口に運んだ。

龍馬「ん。甘くて美味いよ」

龍馬「……すげえ蜜の香り」

手についた欠片までをも舐めとるその様子を、私はじっと見つめていた。

頬が次第に熱を上げるのがわかり、私は笑みを滲ませたまま息をつく。

(もっとたくさんの顔をみたい。他の誰にも、負けないくらいに)

考えているうちにお皿の上のカステラは、なくなってしまい…。

龍馬「あ」

ようやく気づいたように、龍馬さんが私へと視線を向けた。

龍馬「お前も食いたかった?」

あなた「え?」

舌で唇を拭う龍馬さんは、どこか意地悪な笑みを滲ませていた。

龍馬「香りだけなら、まだ残ってるけど。いる?」

あなた「っ……いえ、私は」

答えている間にも龍馬さんが近付き、足に触れたのか椅子が物音をたてる。

それだけで、私の心臓は壊れそうなほど高鳴ってしまった。

龍馬「いらないの」

目の前に立った龍馬さんの影に気付き、私は顔を上げる。

(あ……)

その顔を見上げると、自然と唇が開くのがわかった。

あなた「っ……ん」

いつの間にか龍馬さんの手が首筋を撫でるようにしてうなじに回り、

その甘い唇が私と重なりあっている。

やがて唇を離した龍馬さんが、不意に私の腰を片手で抱き寄せながらささやく。

龍馬「お前、俺にどこが好きかって聞いたけど」

(……え?)

それから顔を近付けると、こつんっと音を響かせ額を重ね合わせた。

龍馬「わかんねえよ」

(え?)

そのまま、龍馬さんは私の顔を覗き見ている。

龍馬「……でも」

その視線にこもった熱に、私は目を離せなくなった。

龍馬「お前の全部を知ってんのは、俺だけだろ。だから」

そして…――

うなじから降りた手が、私の肩をぐっと抱き寄せる。

龍馬「全部好き」

龍馬「……たぶん」

あなた「っ」

再び唇が重なり合い、私は驚くまま小さく目を見開いた。

(相手の心が見えなくて不安になる時もある……でも)

(その度にこうして、何度も想いを確かめあえる)

あなた「ん……っ」

龍馬さんが顔を傾け、耳に口づけ舌をはわせる。

あなた「っ……そんなに、しないでください」

龍馬「なんで」

抗うようにその身体を押すと、顔を離した龍馬さんが首を傾げる。

あなた「な、舐めても……蜜のように甘くはないですから」

肌を赤く染めながら言うと、

一瞬面食らったように目を瞬かせた龍馬さんが笑う。

それから改めて顔を寄せて、甘い吐息を香らせながら言った。

龍馬「お前も知らないだろうけど……蜜よりずっと」

そのささやきが、痺れた唇にかかる。

龍馬「お前、甘いよ」

あなた「っ」

下唇を甘噛みされ、舌がゆっくりと入ってくるのがわかる。

(身体も心も本当に、蜜のように蕩けてしまいそう)

そうして甘く蜜の香る二人の時に、指を這わせていった…。

数時間ドライブをしてユアンが連れて来てくれたのは、ブラッドレイ家所有の湖畔だった。

ユアン「ジュリエット、先に言っておくけど…」

ユアン「ここには、俺と貴女以外、誰もいない」

(え……?)

ユアン「…どんなこと、しようか」

ユアンの紫色の瞳の奥が一瞬、艶やかに光って、ざわりと胸がさざ波立った。

(見つめられてる、だけなのに…)

眼差しを浴びるだけで、蕩けるような甘い気持ちにさせられる。

あなた「……今日はユアンの誕生日だから、」

あなた「ユアンの…したいこと、しよう」

ユアン「分かった」

企むように少し笑った後……柔らかくて熱いユアンの唇が、そっと私の唇に触れた。

あなた「……ん………ぁ…」

まるで飴を溶かすようにユアンの舌先にくすぐられ、気付けば声がこぼれていた。

(ユアン……)

ゆっくり、心までとろとろに溶かされていくみたいで、恥ずかしさも忘れて、ユアンの肩をぎゅっと抱きしめ返す。

その時――

(あ……っ)

ユアン「……!」

かぶっていた帽子が、吹きつけた風にさらわれて舞い上がった。

(いけない…!)

はっとして腕を伸ばすと、その拍子に身体が湖面へぐらりと傾いた。

あなた「わ…!?」

ユアン「ジュリエット…!」

素早く腕を差し伸べたユアンの手に、私は反射的に…ユアンへのプレゼントの入ったバッグを押しつける。

ユアン「え…?」

――バシャン

(……っ)

大きな水音と共に、私は背中から湖へ落ちていた。

ユアン「ジュリエット!」

私が渡したバッグを置いて、ユアンもすぐさま水に飛び込む。

すぐに水の中でユアンにぐいっと引き上げられて、はっとした。

(あれ? ……そんなに、深くない)

ユアン「大丈夫?」

あなた「う、うん……」

腰元まで水に浸かったまま、ユアンに頷く。

ユアン「どうしてさっき、俺の手を掴まないでバッグを渡したりしたんだ」

あなた「それは……ええっと、とっさに…」

(……ユアンのプレゼントを濡らさないように、とは、言えないな)

あなた「本当に、ごめんなさい。ユアンまで濡れちゃったね…」

(せっかくの誕生日なのに……何やってるんだろう)

自分がふがいなくて、まだ大きく揺れている水面に私は視線を落とした。

ユアン「…いや、丁度良かった」

(え…?)

ユアン「今日は暑かったから、水浴びしたいって思ってたんだ」

ユアン「だから、貴女は気にしないで」

濡れてしまったスカーフを解きながら、ユアンは悪戯っぽく微笑んでいた。

(っ…そんな無茶苦茶な嘘……つかなくてもいいのに)

でたらめで、優し過ぎるユアンの嘘に、胸がきゅっと苦しくなる。

ユアン「それより、ジュリエット」

ユアン「このまま……さっきの続き、させて」

あなた「え…っ」

ぱしゃん、と水音が響いたのと同時に、ユアンのはだけた胸に抱き寄せられる。

肌に張りつくワンピースの上から、ユアンの手のひらが、つっと背中を撫でた。

あなた「ふ……ぁ……っ…んっ」

(今は…ふたりきり、だから……)

わずかに残っていた羞恥心さえ、痺れるような愛撫のせいで曖昧になっていき、濡れた身体で抱き合って、私は甘いキスを受け止め続けた。

人目のつかない場所まできて、鷹司はようやく足を止めた。

鷹司「さっき、懐かしそうにお菓子を食べてるお前を見てたら」

鷹司「目の前にいるのは、確かに杏子なんだなって…思えた」

そう言った後、表情を崩し…くすりと笑う。

鷹司「まあ、お前と家光が重なったことは、一度もないんだけどな」

(鷹司…)

家光様を演じていた私を、鷹司はいち早く見抜いた。

それからは身分とかも関係なく、真っ直ぐな心で接してくれて。

(そんな鷹司だから、私は…)

そこまで考えて、胸が切なく締め付けられた。

あなた「ねえ鷹司」

鷹司「何だ?」

あなた「どんな姿でいても、鷹司は私を見つけてくれるかな」

(私、どうしてこんな質問…)

鷹司は顔を上げ、呆れたように言った。

鷹司「あたりまえだろ?」

鷹司「家光の恰好だろうと、他の恰好だろうと…俺は絶対お前を見抜く」

あなた「うん…ごめんね、変な質問して」

鷹司「いや…気にすんな」

眉を下げた鷹司が、再び目の前の景色に目線を映す。

鷹司「杏子は世界に一人だ…間違いようがない」

あなた「ありがとう」

鷹司「ああ」

鷹司の頬が少し赤く見えるのは、夕焼けのせいだけじゃないみたいだ。

照れを隠すように、鷹司は私の方を向いて話題を変えた。

鷹司「菓子また買ってくるよ。さっきのやつ、もう無くなってただろ」

あなた「あ…」

空になったお皿を思い出し、少し恥ずかしくなる。

鷹司「あんなにばくばく食べて、喉に詰まらせないか心配した」

あなた「なっ…ばくばくなんて、食べてないよ」

鷹司「そうか? でもほら…」

そっと口元に指を触れられ、私は驚きで動きを止めた。

鷹司「菓子の砂糖がついてる」

あなた「あ…」

あなた「お菓子、すごく美味しかったし…」

頬を熱くさせて俯く私の頬を撫で、鷹司は甘く囁いた。

鷹司「それでいい。お前は、いつまでもそのままでいてくれ」

あなた「鷹司…」

少し目線を上げると、優しく微笑む鷹司の顔が思ったよりも近くにあった。

鷹司「そのままのお前が…俺は好きだ」

その呟きと共に、鷹司の唇がそっと重ねられる。

柔らかい感触とお菓子の香りが混じり、体の奥を甘く疼かせた。

(鷹司…私も、そのままのあなたが好き)

一度顔を離し、お互い少し照れたように目を見合わせる。

(まだまだ一緒にいたいけど…鷹司のお稽古もあるし)

あなた「そろそろ行こうか」

立ち上がろうとすると、鷹司は私の手首を掴んだ。

鷹司「ちょっと待て」

あなた「えっ、でも…」

私の手首を掴んだまま、鷹司は私を見つめた。

鷹司「まだお前を帰したくない」

鷹司の真剣な声に、私の心に留めがたい想いが宿る。

(もう、帰れなくなっちゃいそう)

それでも、鷹司の手の温もりに抗うことはできない。

あなた「じゃあ…もう少しだけ」

そして、どちらからともなく顔を近づけ…二度目の口づけを交わした。

夕刻を告げるように鳥たちが巣へ戻る声が聞こえ、夕焼けは私たちを赤く染める――。

昨日、ルイに提案したのは城下で待ち合わせることだった。

約束の時間になり広場を見回すと、

教会の前で、金色の髪を揺らす姿が目に入る。

(あっ…)

急いで恋人の元へ歩み寄ろうとすると、

ルイの目の前を通った上品な服装の女性が、話しかけているのが見えた 。

(何の話をしてるんだろう…)

楽しげに話している様子に、ちくりと胸が痛む。

(でも…せっかくのデートなんだから、今日は楽しい日にしたい)

私は気持ちを切り替えて、女性との話を終えたルイの元へ歩み寄った。

あなた「ルイ。ごめんね、待たせてしまって」

ルイ「待ってないから、平気」

優しく微笑みながら答えるルイに、私も笑顔で続ける。

あなた「公務、早く終わったんだね」

ルイ「うん。…カレンのこと、待たせたくなかったから」

(私のために、急いで来てくれたのかな)

(それなのに、他の女性と楽しげに話していただけで、妬いてしまうなんて…)

ルイの優しい言葉で、もやもやした気持ちは一気に消えていく。

あなた「ありがとう、ルイ」

心からの笑顔を向けると、ルイは少し考えるような表情で、ぽつりと呟いた。

ルイ「……気のせいだったのかな」

あなた「え?」

ルイ「俺に声かける前…ちょっと悲しい顔、してたから」

あなた「っもしかして…ルイを見ていたの、気づいてた…?」

ルイ「うん」

ルイは私がいたことには気づいてたものの、女性との話が終わっていなかったため、 声をかけそびれたのだという。

(顔に出していたつもりはなかったのに…)

あなた「ルイが女の人と楽しそうに話していたから、少し気後れしてしまって…」

正直に告げると、ルイがふんわりと笑みを浮かべる。

ルイ「さっきのは、道を聞かれただけ」

ルイ「でも、楽しそうに見えたのは多分…」

ルイ「…恋人が、早く来るといいですねって言われたから」

(っ…そうだったんだ…)

勘違いでやきもちを焼いてしまったことに、恥ずかしさが湧く。

じんわりと頬が火照るのを感じていると、ルイは小さく 笑い、少しだけ私との距離を近づけた。

ルイ「…やきもち、焼いてくれたんだ。可愛い」

ルイ「それに、ちょっと嬉しい」

あなた「っ…」

いっそう頬を熱くして見上げると、ルイが指を絡めて手を繋いで…―

ルイ「大丈夫。俺が好きなのは君だけだよ」

甘い眼差しで囁かれた言葉に、胸がとくんと波打つ。

あなた「ありがとう…。私も、ルイが大好き」

想いを込めて見つめると、ルイは澄んだ瞳を細めて、私の指先に唇を寄せた。

ルイ「これからも…カレンを大好きな気持ち、何度でも伝えたい」

(小さなことで不安になっても、ルイの優しさが包み込んでくれる)

(こんな風に想いを伝え合って、ずっと一緒に過ごせたらいいな)

手の平から伝わる温もりに心ごと満たされて、私は、そっと絡めた指先に力を込めた…―